福岡アジア美術館で、漫画家「萩尾 望都」の原画展が始まります。
私は、是非行きたいと思っています。

萩尾望都の作品と最初に出会ったのは、私が小学校の時。当時マーガレットやリボンという
月間漫画雑誌が流行っていたのですが、少女コミックという少しマイナーな雑誌に
「ポーの一族」が連載されていたのでした。

当時の漫画はベルサイユのバラに代表される池田理代子や一条ゆかりのような目のパッチリした
お人形のような絵が主流でした。
その当時には、萩尾望都の絵やストーリーは一種独特で、暗くてマイナーな感じがしたものでした。
ところが彼女の作品を読めば読むほどストーリーの紡ぎ方の上手さ、デッサン力の素晴らしさに
惹かれていくばかり。

萩尾望都のファンの皆さんは良くご存知だと思いますが、彼女の漫画はもう「文学」の領域に達し
ていると思えてなりません

私の心の”宝物”になっている作品を今日はご紹介します。

ポーの一族

(画像はポーの一族 エドガーとアラン)
シリーズで数年に渡って続いた「ポーの一族」「トーマの心臓」は初期の萩尾望都を代表する作品です。
「ポーの一族」はバンパネラ(吸血鬼)として数百年の時代を生きた少年エドガーと
途中で仲間に加わったアラン、そして二人が愛した“メリーベル”(エドガーの妹)という少女が
独特の世界を織り成します。
人間には戻れない苦悩とピーターパンのように大人にならない少年の姿が美しく、哀しく描かれ
ています。
最終章は遠い時代に別れた“メリーベル”の面影が現代に生きるエドガーとアランを人間の世界に巻き
込んでいきます。
長い物語ですが、数年に渡って書かれた作品のひとつひとつが紡ぎだすドラマは見事です。
ポーの一族はエドガー・アランポーに習ってネーミングされたものです。
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(画像はトーマの心臓 下ユリスモール 上トーマ)

「トーマの心臓」は、テーマが難しいものでした。ギムナジウムの少年の世界がガラスのように繊細に
描かれています。優等生のユリスモール、不良でまとめ役のオスカーライザー、そしてユリスモールに
恋をして命を投じたトーマ。トーマの死は最愛のユリスモールの背中にもう一度“天使の羽”を与えて
あげることでした。ユリスモールは、トーマの“無償の愛”に気づきます。
この作品の中では、俯瞰的に物事を見ている大人びたオスカーライザーがある意味印象的でもあります。
しかし、そんなオスカーを作り上げたのは彼の哀しい生い立ちだったのです。

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(萩尾望都 最高傑作だと思います。「訪問者」)
私が最高傑作だと思う「訪問者」には「トーマの心臓」に描かれている
オスカーライザーの幼少期が哀しく繊細に描かれています。
母親を殺した父。それを知っていながら刑事に嘘を突き通すオスカー。
父グスターフは、オスカーが自分の子供ではないことを知り、追い詰められていきます。
最愛の妻とそっくりの顔をしたオスカー。

オスカーはカメラマンの父親グスターフと父の愛犬と共にドイツ各地を転々と旅します。
父の愛犬が死に、オスカーを宿に残してやっと帰宅した父親に「ママの次には僕を捨てるんだ」と
初めて、自分の心のうちをぶつけます。

オスカーライザーが成りたかったもの。それは「父グスターフと共に家にいることを許される子供」
だったのです。
”雪の中に足跡を残して神様が裁きにやってくる。”この印象的なフレーズが頭に残りますが
”裁きにやってくる神”こそ、オスカーにとって、来て欲しくない訪問者だったのです。

“神様は子供のいる家には裁きにこないのだ”オスカーは、唯一それを自分が父と共に暮らして良い
理由のように思うのがとても哀しい。
父親を愛して止まないオスカーが連れて行かれたところはミュラー校長の経営するギムナジウムで
した。そして、彼こそ、オスカーの実の父親だったのです。

「トーマの心臓」では大人びた役どころのオスカーですが、訪問者では子供らしい彼の感情がみえ
てきます。
南米へ行く父と別れたオスカーは涙を流します。決して父は自分を迎えに来ないのだと。
なぜなら、”裁きにくる神”から父グスターフを守るつもりが、"裁きに来る神”こそオスカーライザー
自身だったことに気が付くからです。

愛しているが故に、苦しみ、愛しているが故に別れが訪れる。まだ少年だったオスカーが受け止め
るにはあまりにも大きな悲しみでした。

泣き顔のオスカーをシュロッターベンツの官舎に案内する優等生ユリスモール。そこから「トーマの心臓」
へ話は移ります。
ユリスモールを愛するオスカーの原点はここにあったんですね。

「訪問者」はトーマの心臓よりずっと後の作品ですが、「訪問者」を読んだ後に、トーマの心臓」を読
むとまた、更に感慨深くなります。作品自体は前後していても、物語は綺麗に紡がれていて、作者が
オスカーライザーの生い立ちをあたためた上でトーマの心臓を描いたのだと思われます。

興味を持っていただいた方、是非読んでみてください。いつまでも心に残る作品達です。
他にも、ブラッドベリーを漫画化した「10月は黄昏の国」「11人いる」「アロイス」「半神」「イグアナの娘」
など数々の名作があります。